慌ただしく葬儀が済み、諸手続きが済むと、ひと息ついてから今度は故人の遺品整理を始める段階になります。こうした流れの中で少しずつ故人との思い出も整理されていくのですが、ある程度整理された遺品の中から、家族や親族、故人と親交のあった人に形見分けをすると一区切りになります。
遺産相続に比べてあまり重要視されていませんが、形見分けも、故人と関わりの深かった人々が故人の思い出とともにゆかりの品を受け取る大切な習慣です。どんな物でもいいというわけにはいかず、いつでもいいということもありません。相応の決まりにのっとって行われるものですから、ここでは、形見分けのしきたりや注意したいことをご紹介します。
形見分けは、故人を忘れないように、主に家族、親族、親しさの度合いによっては友人知人までの間で、故人の愛用していた物や思い出の品物を分け合う習慣です。
遺産相続とは別に、資産価値のない、高額ではない物を、遺品の中から分け合います。遺品整理の段階で、形見分け用に取り分けておくといいでしょう。遺品整理を共にしながら、遺族の間で形見分けも同時にできれば一番いい方法なのですが、形見分けを希望する人が遠方に住まう場合、故人の遺言に名前があった友人知人には、遺族から形見の品を送ったり渡したりすることになります。
最近はあまり問題視されませんが、一般的に、年齢や立場が上の人への形見分けは失礼とされています。ご本人が強く希望されていたり、故人からの要望があったりした場合は、できるだけ遺族の年長者から贈るようにするなど礼を尽くせば問題ないでしょう。
形見分けは、仏教式だと四十九日を過ぎたあたりがひとつの目安です。神式は50日、キリスト教式は1か月程度が、故人が亡くなって最初の区切りです。
亡くなった直後は悲しみの気持ちが強いので、宗教上、亡くなった人も死を受け入れて天に上るとされる四十九日などの区切りの日にちにのっとって行うのがいいでしょう。
故人とつながりのある人が少なく、家族や近しい身内のみの場合は、遺品整理をしながら気に入った物を自分たちで見つけて引き取るといいでしょう。身内が集って遺品を手に取りながら思い出話しに花を咲かせて行う形見分けなら、文句の出ることもなく、また、故人も喜ぶことでしょう。
また、故人の遺志であっても、縁の薄い人や、受け取りを固辞した人には無理に譲らないようにしましょう。あくまで、故人との思い出を大切にする意味で望む人のもとに望む物が行き渡ることが、形見分けの本来の意味に沿った配慮の仕方です。
先にも述べましたが、形見分けは遺産相続とは別のものなので、高額の品物は対象外となります。故人が生前に愛用していた日用品の中から各人好みに合った物を、自分で選んで引き取ったり、遺族が選んで贈ったりします。
形見分けとして一般的なのは、故人が愛用していた万年筆やボールペンなどの文具類、アクセサリーや洋服などです。受け取った人が引き続き使うことのできる物だと遺品が無駄にならない上に、故人の遺志もそのまま続いていく形になります。
なお、形見分けはプレゼントではないので、遺族から故人の友人知人に贈る場合でも装飾的な包装はしません。何かしら包む必要がある物は、半紙などで簡単に包んで渡しましょう。
形見分けは品物のやり取りなので、誰が受け取るのか、何を贈るのか、贈る物は形見分けの品として相応しいかどうかなどは、しっかり確認した上で問題なく行わなければトラブルのもとです。
まず、「誰が受け取るのか」ですが、対象者が多い場合、故人の遺志や遺言状も確認した上でリスト化しましょう。リストができたら、対象者全員に同意を得る必要があります。親族の意見も聞いて、漏れや不平等が起こらないようにしましょう。
故人に資産価値のあるコレクションがある場合は、故人と親しかった知人を装って遺品の引き取りを願い出る人が現れることがあります。特に、マニアにしかわからない換金性の高いコレクションの場合、遺族には価値がわからず、安易に譲り渡してしまう危険性があります。
故人のコレクションは、一見して価値のないようなものでも、一度専門家に相談することをおすすめします。気づかずに高価な物を廃棄してしまうことにもなりかねません。
「何を贈るか」に関しては、あまり高額のものは相応しくなく、できれば実用性のある物がいいでしょう。受け取る側が納得する物でなければ、受け取る人の間で不平等感が起こってトラブルになります。特に、着物や宝飾品などの換金性のあるものは、物によっては非常に高額になるので、本物かどうか不明のものでも、専門の鑑定士に見てもらった方が安心です。
また、故人が資産家で、形見分けの品も高額になる場合は、110万円以上は贈与税がかかりますので、その旨了承を得る必要があります。不用意に贈って、後で多額の税金がかかってしまったなど、贈った相手に迷惑がかかってしまうことがあるので、遺品整理はしっかり行って、形見分けの価値を把握しておくことが大切です。